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新建築 住宅特集9月号に『TAV 1307』が掲載

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「photo by t.ishiguro」



風景に向かう/段丘を翳す

敷地は、急な南斜面地を50年ほど前の宅地開発で段丘状に造成された土地である。建主はこの段丘状の土地に果樹畑を築くための作業と、自らの空間創作の場になるような小さな拠点を築きたいと計画がスタートした。
もともとは宅地開発の際につくられた斜面下の道路からの階段がこの敷地の入口であったが、東側にある受水槽設置のためにつくられた小さな段丘を利用して北側道路からのアプローチを設えた。駐車スペースも確保しながら、徐々に果樹畑までのレベルまで導く立体的な構成である。その構成に沿って東西に1枚の片流れ屋根を架けているが、それはアプローチする北側の傾斜道路と応答しながら、斜面地の地形が段丘に沿って反復される姿を可視化している。
11×6.5mの片流れ屋根を支える軸組は段丘のレベルに沿いながら置かれているが、道路から1.5mほど下がった中段の段丘には約2.5間角のべた基礎を、さらに2m下の果樹畑のレベルには、独立した3本の布基礎を配置し、いわゆる懸造りのような軸組を構成している。
アプローチとなる北道路側には幅1.2mほどの軒下を確保し、この敷地の段丘の上下を繋ぐ階段がある。その階段を目線ほど下がった踊場レベルに居住の中心となるエントランス、食堂、最小の水回りが(この高さは北側道路にある公共下水深さにギリギリで放流できるレベルでもある)、また水回りと大屋根との狭間にはロフトスペースがあるが、このレベルも道路から目線ほどの高さにあり、外部から直接荷物を運び入れたりすることもできる。
これらの高さの選択が、身体スケールとも密接に関係しながら大地との接触をより強くする。西の広間は1段低く果樹畑に向かって跳ね出しているが、大きな庇と相俟って、屋外での作業や休憩の土間空間、さらには将来の拡張も可能な屋外の吹抜け空間となっている。内部の仕上げはほとんどがラワンベニヤであるが、これはその後時間をかけて、建主自らが内部の表層デザインを展開していくためのキャンバスとしての素材でもある。

(内木博

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